【書評】世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ (山口 周)

本書を楽しめそうなのはこんな方:

  • デザイン思考が経営にどう生きるのか、疑問に思う方
  • 論理思考とか仮説思考等のコンサル式うんぬん系ビジネス本はもう読んだので別の事も知りたいという方
  • スティーブジョブスのような直感タイプや、「空・雨・傘」フレームワークの傘派に該当するという自覚のある方
  • 上記タイプとうまくやっていきたい方
  • なぜニューヨークの美術館ツアーの客層がビジネスマンに変わってきているのか気になる方

MBAやコンサル業務での経験*は、各種フレームワークの分析や確率論を駆使したビジネス上の「正解」を生み出す方法論の洗練に寄与してきたが、今日ではMBA保有者増加やコンサル経験者の転職や情報発信を通してノウハウが市場に溢れており「正解のコモディティ化」が進んでいる。

(*この点は、近年の体系には一部で変化が認められる。例えば、エンロン事件以降のMBAでは学生にEthicsの重要性を叩きこむ事はもちろんのことDesign thinkingやSystem problem solvingといった正解の導きにくいフワフワした難題(私のスクールではWicked problemと言っていた)への取り組みについても学べるし、マッキンゼー筆頭にコンサルティングファームがデザイン会社を買収している事例からもコンサルティング業務とデザインの融合が会社の価値を向上させると当事者たちに期待されていることが読み取れる。)

確かに、コンサル出身者のノウハウの書籍化・ブログ化が進み、採掘限度のあるゴールドのように思われていたものが最近では容易に手に入るようになっているのを感じる。本書では、経営を「サイエンス」の切り口でのみ語ることに対する警鐘を鳴らし、経営者個人の美意識(アート)のセンスを取り入れる重要性を語る。

正解がコモディティ化している時代では、サイエンスをベースとした経営者の決断は他者との差別化をしにくい。なぜなら、同じく優秀な別の経営者も同じような決断をするから。優位性ある決断をするには経営者としてのプラスアルファが必要で、それが美意識であると筆者は説く。”認識のモードを『理性』だけに依存するのは危険であり、正しい認識や判断には『快・不快』といった感性の活用が不可欠”とのこと。

経営者の美意識が欠如すると何が起こるか。それはシステムの破綻。例えば有名どころではエンロン事件。日本の事例では、DeNAのコンプガチャとWelQ事件。前者は若者がオンラインガチャで特定のアイテムをコンプするために支払い能力以上の課金をし多くの自己破産を招いた。後者では正確性が担保されていない医療健康情報がユーザー間に広まってしまい社会的混乱を招いた。こういう問題が露呈する背景には、「システムの変化にルールが追い付かない」世界になっていることが挙げられる。政府が規制を変えていく以上のスピードで企業が新しいサービスを立ち上げていくので、経営者自身が何が黒で何が白か判断しないといけない。グレーゾーンを攻めると短期的な利益は出ても長期的には詰む。上記DeNAの二つの事例はグレーを攻め過ぎた好例。

では、美意識を高める方法として何ができるのか?詳しくは本書を読んでいただきたいが、端的には哲学や芸術を学ぶことが重要とのことだった。個人的には、ベタだが美術館に行ってみようかと思う。今までアートについて食わず嫌いをしていたのは否めないので、まずは簡単に出来るところから。

近年では、グローバル企業の経営幹部候補者がMBAではなくロイヤルカレッジオブアートのような美術系大学院大学にエグゼクティブトレーニングとして派遣される事例も増えてきたとのこと。絵を観ながら他者とあれこれ議論するのは美意識を向上する良い訓練になる、と信じたい。

(ちなみに、芸術的な趣味を持つ人ほど知的パフォーマンスが高いという統計データがあることも紹介されていたが、知的パフォーマンスが高い人が芸術的な趣味を持ちやすいという可能性もあり相関関係なのか因果関係なのかは謎)

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